1.労働保険の概要


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労災保険と雇用保険とを総称して労働保険と呼び、保険給付はそれぞれの保険制度でに行われていますが、保険料の徴収等については、両保険は労働保険として、原則的に一体のものとして(一元的に)取り扱われます。(原則を「一元適用事業」、例外を「二元適用事業」といいます。)

労災保険制度とは

 労災保険制度は、業務上の事由または通勤による労働者の負傷、疾病、障害、または死亡に対して必要な保険給付を行うとともに、あわせて被災した労働者の社会復帰の促進、被災した労働者と遺族の援護、労働災害の防止などを目的とする社会復帰促進等事業を行う総合的な保険制度です。

雇用保険制度とは

 雇用保険制度は、労働者が失業した場合や労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活や雇用の安定を図るとともに、再就職を促進するための必要な給付を行う保険制度です。また、失業の予防や雇用状態の是正および雇用機会の増大、労働者の能力の開発・向上等を図るための事業も行っています。


1.1 労働保険関係の成立と対象者

①適用事業
 労働保険は、他の公的保険と異なり、個人単位ではなく事業単位(本社、支社、営業所、工場、工事現場など)で適用されます。それぞれの事業は、暫定任意適用事業に該当しない限り、原則として労働者を1人でも使用していれば法律上、当然に、労働保険に加入することになります。
②暫定任意適用事業
 暫定任意適用事業とは、農林水産の事業のうち、労働保険に加入するかどうかは事業主の意思やその事業に使用されている労働者の過半数の意思にまかされている事業をいいます。保険関係は、事業主が任意加入の申請をし、その承諾を得てはじめて成立します。

(1)労災保険の暫定任意適用事業
・労働者数5人未満の個人経営の農業であって、特定の危険又は有害な作業を主として行う事業以外のもの
・労働者を常時は使用することなく、かつ、年間使用延労働者数が300人未満の個人経営の林業
・労働者数5人未満の個人経営の畜産、養蚕または水産(総トン数5トン未満の漁船による事業等)の事業

(2)雇用保険の暫定任意適用事業
 次に掲げる農林水産の事業(国、都道府県、市町村その他これらに準ずるものの事業および法人である事業主の事業を除きます)であって、常時5人未満の労働者を雇用する個人経営の事業です。
・土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業(いわゆる農業、林業と称せられるすべての事業)
・.動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他畜産、養蚕又は水産の事業

③適用対象者

(1)労災保険
 適用事業に使用され、労働の対償として賃金が支払われる者(労働者)であれば、常用・臨時雇・日雇・アルバイト・パートタイマー等の名称や雇用形態に関係なく、労働者としてその事業に使用されている間は、すべて労災保険の保護を受けることとなります。
 なお、事業主と同居している親族や法人の役員については、一定の条件を満たす場合に限り、労災保険が適用されます。

(2)雇用保険

 次の適用除外に該当しない労働者(※)は、雇用保険の適用対象者となります。(雇用保険法第6条)

ア.65歳に達した日以後に雇用される者

 ただし、次の者は適用除外とされない。
a.同一の事業主の適用事業に同日から引き続いて65歳に達した日以後の日において雇用されている者。(つまり、65歳前から継続して雇用されている場合)
b.短期雇用特例被保険者に該当する者
c.日雇労働被保険者に該当する者

イ.1週間の所定労働時間が20時間未満である者

ウ.同一の事業主の適用事業に継続して30日以上雇用されることが見込まれない者

エ.日雇労働者であって、日雇労働被保険者に該当しない者
※ただし、厚生労働省令で定めるところにより公共職業安定所長の許可を受けた者は被保険者となる。

オ.4箇月以内の期間を予定して行われる季節的業務に雇用される者(日雇労働被保険者に該当する者は被保険者となる。)
※なお、予定されていた期間を超えて引き続き同一の事業主に雇用されるに至った場合は、その超えた日から被保険者となる。

カ.船員保険の被保険者
※ただし、疾病任意継続被保険者は雇用保険の被保険者となる。(疾病任意継続被保険者とは、退職等により船員保険の被保険者資格を喪失した後に一定の要件を満たすと、最長2年間は船員保険の健康保険のみを継続できる制度です。参照)

キ.国、都道府県、市町村等に正規職員として雇用される者

(※)次のような人は、適用除外ではなく雇用保険法上の労働者に該当しないため、保険料計算の対象となりません。

ア.個人事業主

イ.代表取締役
※だだし、親会社に在籍したまま子会社の代表取締役に就任するような場合は親会社の雇用保険の対象となるケースが多い。

ウ.取締役・監査役
※ただし、使用人兼務取締役については雇用保険の対象となるケースが多い。監査役については、会社法上も使用人兼任が認められていませんが、従業員と働き方が変わらず名目的な監査役とされる場合は、雇用保険の対象となる。

エ.昼間学生
※ただし、卒業見込み証明書を有する者で卒業前に就職し卒業後も引き続き当該事業所に勤務する予定の者 もしくは休学中の者または一定の出席日数を課程修了の要件としない学校に在学する者であってその事業において同種の業務に従事する通常の労働者と同様に勤務し得ると認められた者は、雇用保険の対象となる。

オ.家事使用人
※ただし、主として家事以外の労働に従事することを本来の職務とする場合には、雇用保険の対象となる。

カ.同居の親族

※ただし、次の3つの要件を全て満たす場合には、雇用保険の対象となる。

・事業主の指揮命令に従っていることが明確

・就業の実態が他の労働者と同様であり、賃金もその労働に応じて支払われていること

・取締役等事業主と地益を一にする地位には無いこと

キ.臨時、内職的に雇用される者

※賃金が家計の補助的なものであり、反復継続しては働かず、臨時的、内職的にしか働かない場合には、雇用保険の対象とならない。

ク.保険会社の外交員等
※ただし、勤務実態が労働者と変わらない場合は、雇用保険の対象となる。(「労働法の全体像1~労働者とは?」参照)

ケ.海外勤務者者
※ただし、事業主の命令により、国外へ出張労働している場合や国外の支店に転勤するという場合、出向する場合には、引き続き、雇用保険の対象となる。


1.2 一元適用事業と二元適用事業

(1)一元適用事業
 労災保険と雇用保険を1つの労働保険の保険関係として取り扱い、保険料の申告・納付等は両保険一本で行なう事業を、一元適用事業といい、二元適用事業に該当しない事業は一元的事業となります。

(2)二元適用事業
 次に該当する事業は二元適用事業といい、労災保険の保険関係と雇用保険の保険関係を別々に取り扱い、保険料の申告・納付等はそれぞれ別々に行います。

ア.都道府県及び市町村が行う事業やこれに準ずるものの事業
 都道府県、市町村等に正規職員として雇用される者(いわゆる公務員)は、雇用保険の対象とならず、また現業の事業所は労災保険は適用事業所であるが公務員には適用されないなど、一元的に取り扱うことが複雑なため。なお、国及びこれに準ずるものの事業は雇用保険及び労災保険ともに適用がない。

イ.港湾労働法の適用される港湾の運送事業
 日雇い労働者(日雇労働被保険者に該当)するものが多く、一元的な取扱いにそぐわないため。

ウ.農林・水産の事業
 雇用保険と労働保険で暫定任意適用の要件が異なるため

オ.建設の事業
 一つの建設事業について、一次・二次・三次と下請けの事業が多く、このような場合にはそれぞれの事業主について雇用保険が適用されるが、労災保険については請負の一括により元請負人のみが適用事業の事業主として扱われ、取扱いが異なるため。


1.3.労災保険の一括

 労災保険では、原則的に事業単位で保険関係が成立し、保険料を納めることになっており、例えば、複数の店舗を営んでいる事業主は各店舗毎に保険料を納める必要があり手続きが煩雑です。そこで事務処理を簡素にするために、次のような場合に2以上の保険関係を一括して一つの保険関係として処理することができることになっています。

①有期事業の一括
 有期事業とは、一定期間予定された間のみ行なわれる事業のことをいい、工事期間がある住宅やビルの建築工事、道路工事及び立木伐採事業などが該当します。本来であれば事業開始、終了の都度保険手続を行うのですが、煩わしいため、それぞれの事業をまとめて一つの保険関係で処理することとしています。これを「有期事業の一括」といい、それぞれの有期事業が次の全ての要件に該当した場合、それらの事業は法律上一つの事業とみなされ、継続事業と同様に取り扱われます。

(1)事業主が同一人であること。
(2)それぞれの事業が建設の事業または立木伐採の事業であること。
(3)それぞれの事業の規模が、概算保険料を試算してみた場合、その額が160万円未満であって、かつ、建設の事業においては、請負金額が1億8千万円(税抜き)未満、立木伐採の事業においては素材の見込生産量が、1千立方メートル未満であること。
(4)それぞれの事業の種類が、建設の事業においては、「労災保険率表」で事業の種類が同一であること。(「労働保険料率表」については、厚生労働省HP「労働保険年度更新に係るお知らせ」参照)
 従って、同一事業主が当該年度に実施予定の2以上の事業の種類が異なる場合は、事業の種類ごとに保険関係成立の手続が必要となります。ただし、事業主が希望した場合には、主たる事業の種類(当該年度に施行予定の事業のうち事業の種類ごとの概算保険料の算定基礎となる賃金総額の最も多い事業)に係る保険関係成立の手続を行い、主たる事業の種類以外の事業については、主たる事業に含めて一括して一つの保険関係として取り扱うことができます。
(5)それぞれの事業に係る保険料納付の事業所が同一で、かつ、それぞれの事業が、その一括事業所の所在地を管轄する都道府県労働局の管轄区域か隣接する労働局の管轄区域内で行われていること。ただし、「機械装置の組立て又は据付けの事業」については、地域の制限がありません。

②継続事業の一括
 継続事業とは、事業の期間が予定されていない事業のことをいい、一般的な工場、商店及び事務所などが該当します。労働保険の保険関係は、個々の適用事業単位に成立するのが原則なので、一つの会社でも支店や営業所ごとに数個の保険関係が成立します。しかし、それぞれの事業が次の要件を全て満たす継続事業については、事業主が申請して認可を受けることでこれら複数の保険関係を厚生労働大臣が指定した一つの事業で、まとめて処理することができます。

(1)継続事業であること。
(2)指定事業と被一括事業の事業主が同一であること。
(3)それぞれの事業が、次のいずれか一つのみに該当するものであること。

・労災保険に係る保険関係が成立している事業のうち二元適用事業
・雇用保険に係る保険関係が成立している事業のうち二元適用事業
・一元適用事業であって労災保険及び雇用保険の両保険に係る保険関係が成立しているもの

(4)それぞれの事業が、労災保険率表による事業の種類が同じであること。

(5)さらに、認可をうけるための具体的要件として、次の要件を具備している必要が有ります。
・指定事業は、被一括事業の使用労働者数及び労働者に支払われる賃金明細の把握ができていること。
・労働保険事務を円滑に処理する事務能力を有していること。

③請負事業の一括
 建設の事業については、請負事業者がその請け負った工事の全部または一部を、さらに他の請負業者に請け負わせ、数次に渡る請負で有機的な関連をもって一体で行われるのが普通です。この場合、これらの下請負事業ごとに分割して保険適用することは実情にそぐわず困難です。そこで、この場合は、法律上当然に下請負事業を元請負事業に一括して、元請負人のみを適用事業の事業主として取り扱うこととなっています。




1.4 雇用保険事業所非該当承認

 雇用保険に関する事務処理は、原則は事業所ごとに行うこととなっていますが、労働者が役務を提供する場所または施設(支店、営業所、出張所等)が、次の要件にすべて該当し、独立した事業所と認められないときは、事業主が申請し承認を受ければ、直近上位の主たる事業所(本社、支社等)で、一括して雇用保険関係被保険者に関する一切の手続を行うことができます。これを「雇用保険事務所非該当承認」といいます。
(1)人事、経理、経営(または業務)上の指揮監督、賃金の計算、支払等に独立性がないこと。
(2) 健康保険、労災保険等他の社会保険についても主たる事業所で一括処理されていること。
(3) 労働者名簿、賃金台帳等が主たる事業所に備付られていること。


1.5 労務費率による労災保険料の計算

 労災保険料は、労働者に支払う賃金総額の確定額(概算保険料で翌年度末までに支払う賃金総額の見込額)に業種や業務内容によって定められている保険率を乗じて計算するのが原則ですが(当HP「労災保険の年度更新」参照)、建設の事業については、原則として工事等を受注した元請負人がその工事等に従事する労働者すべての賃金を含めて申告納付します。このため、保険料の算定基礎となる賃金総額を正確に把握することが困難な場合は、労災保険分に限り請負金額に事業の種類ごとに定められた労務比率を乗じた額を賃金総額とする計算が認められています。(労務費率表は厚生労働省HP「労災保険制度」参照。労務費率は毎年変更になります。)
平成30年度の労務費率表はこちら


人事労務の備忘録

社会保険労務士が作成する給与計算・社会保険・労働保険・労働法等についての備忘録です。各種書式、各種手続や法令解釈等について解説しています。

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