2.労働保険の年度更新

トップ労働保険労働保険の年度更新




 労災保険と雇用保険の保険料を合わせて労働保険といいます。労働保険は、一保険年度(4月から翌年3月分まで)について概算保険料を計算して、申告納付します。翌年度の初めに前年度の確定保険料と、既に納めている概算保険料とを精算し、併せて翌年度の概算保険料を申告納付することになっています。
 このように、労働保険料は、原則として1年に1回、6月1日から7月10日までに精算し、申告納付を行ないます。これを、年度更新といいます。


2.1 年度更新の概要

(1)労災保険の保険料
 労災保険の保険料は、会社が全額負担します。保険料の額は、労働者に支払う賃金総額の確定額(概算保険料で翌年度末までに支払う賃金総額の見込額)に業種や業務内容によって定められている保険率を乗じた額になります。

  労災保険料=全労働者の賃金総額(確定額・見込額)×労災保険率

①労災保険の保険料計算の対象者
 計算の対象となる労働者には、正社員だけではなく、兼務役員やパートタイマー・アルバイトなどの臨時的な労働者も含まれます。また、出向労働者については、賃金が出向元で支払われていても、出向先の賃金に含めて計算します。ただし、派遣社員は、派遣先の計算の対象となる労働者に含まれません。

②労災保険の保険料計算で用いる賃金総額
 確定保険料の計算では、支払いの確定した賃金総額を用います。概算保険料の計算では、直前の保険年度の賃金総額の100分の50以上100分の200以下であるときには、賃金総額の見込額は、直前の保険年度の賃金総額を使います。また、賃金総額に1,000円未満の端数が出たときは、端数を切り捨てます。なお、労災保険料の対象となる賃金の範囲は雇用保険料の対象となる賃金の範囲と同じです。(「雇用保険料の対象となる賃金」参照)

③労災保険の保険料計算に用いる保険率
 保険率は、事業の種類により、1000分の2.5~1000分の88です。
 各事業の保険率は、厚生労働省等のホームページで確認できます。(厚生労働省HP「労働保険年度更新に係るお知らせ」参照)※年度毎に変更がありますのでご注意ください。

④労災保険のメリット制
 労災保険では、事業の種類毎に保険率を定めています。しかし、業務災害の発生率は、個々の事業で異なります。そこで、労災保険料負担の公平を図るなどの目的で、過去の業務災害発生状況に応じて保険率を40%の範囲内で増減させる制度があります。これを、メリット制といいます。
 メリット制の適用の対象となるためには、継続事業では、事業の継続性に関する要件と、事業の規模に関する要件を満たす必要があります。

 事業の継続性
 労災保険の保険関係が成立してから3年以上経過していること

 事業の規模
 次のいずれかの条件を満たしていること
・100人以上の労働者を使用する継続事業
・20人以上100人未満の労働者を使用する継続事業で、かつ災害度係数(※)が0.4以上の事業
(※) 災害度係数=労働者数×(適用される労災保険料ー0.6/1,000)

 メリット制が適用されるのは、連続する3保険年度の最後の年度(「基準日」の属する年度)の翌々保険年度です。メリット制が適用さる場合は、労働局から送付される申告書に、あらかじめメリット率が適用された保険率が印字されています。

(メリット制適用時期のイメージ)


(2)雇用保険の保険料
 雇用保険の保険料は、会社と労働者で負担します。雇用保険に加入している労働者(被保険者)の毎月の給与から雇用保険料を徴収します。

雇用保険料=〔雇用保険に加入している労働者に支払う賃金総額ー免除対象高年齢労働者(※)に支払う賃金総額〕×雇用保険料率
(※)被保険者(短期雇用特例被保険者・日雇労働被保険者を除く)のうち、保険年度の初日である4月1日時点で満64歳以上であること。この条件を満たしている従業員は、雇用保険の負担が被保険者負担分、事業主負担分ともに免除されます(この免除は平成31年度までの適用となりますので、平成32年度(平成32年4月)からはこの部分の減算は無くなり、雇用保険料=雇用保険に加入している労働者に支払う賃金総額×雇用保険料率となります。)

①雇用保険の適用対象者
 次の適用除外に該当しない労働者(※)は、雇用保険の適用対象者となります。(雇用保険法第6条)

ア.65歳に達した日以後に雇用される者
 ただし、次の者は適用除外とされない。
a.同一の事業主の適用事業に同日から引き続いて65歳に達した日以後の日において雇用されている者。(つまり、65歳前から継続して雇用されている場合)
b.短期雇用特例被保険者に該当する者
c.日雇労働被保険者に該当する者

イ.1週間の所定労働時間が20時間未満である者

ウ.同一の事業主の適用事業に継続して30日以上雇用されることが見込まれない者

エ.日雇労働者であって、日雇労働被保険者に該当しない者
※ただし、厚生労働省令で定めるところにより公共職業安定所長の許可を受けた者は被保険者となる。

オ.4箇月以内の期間を予定して行われる季節的業務に雇用される者(日雇労働被保険者に該当する者は被保険者となる。)
※なお、予定されていた期間を超えて引き続き同一の事業主に雇用されるに至った場合は、その超えた日から被保険者となる。

カ.船員保険の被保険者
※ただし、疾病任意継続被保険者は雇用保険の被保険者となる。(疾病任意継続被保険者とは、退職等により船員保険の被保険者資格を喪失した後に一定の要件を満たすと、最長2年間は船員保険の健康保険のみを継続できる制度です。参照)

キ.国、都道府県、市町村等に正規職員として雇用される者

(※)次のような人は、適用除外ではなく雇用保険法上の労働者に該当しないため、保険料計算の対象となりません。

ア.個人事業主
イ.代表取締役
※だだし、親会社に在籍したまま子会社の代表取締役に就任するような場合は親会社の雇用保険の対象となるケースが多い。
ウ.取締役・監査役
※ただし、使用人兼務取締役については雇用保険の対象となるケースが多い。監査役については、会社法上も使用人兼任が認められていませんが、従業員と働き方が変わらず名目的な監査役とされる場合は、雇用保険の対象となる。
エ.昼間学生
※ただし、卒業見込み証明書を有する者で卒業前に就職し卒業後も引き続き当該事業所に勤務する予定の者 もしくは休学中の者または一定の出席日数を課程修了の要件としない学校に在学する者であってその事業において同種の業務に従事する通常の労働者と同様に勤務し得ると認められた者は、雇用保険の対象となる。
オ.家事使用人
※ただし、主として家事以外の労働に従事することを本来の職務とする場合には、雇用保険の対象となる。
カ.同居の親族
※ただし、次の3つの要件を全て満たす場合には、雇用保険の対象となる。
・事業主の指揮命令に従っていることが明確

・就業の実態が他の労働者と同様であり、賃金もその労働に応じて支払われていること
・取締役等事業主と地益を一にする地位には無いこと
キ.臨時、内職的に雇用される者
※賃金が家計の補助的なものであり、反復継続しては働かず、臨時的、内職的にしか働かない場合には、雇用保険の対象とならない。
ク.保険会社の外交員等
※ただし、勤務実態が労働者と変わらない場合は、雇用保険の対象となる。(「労働法の全体像1~労働者とは?」参照)
ケ.海外勤務者者
※ただし、事業主の命令により、国外へ出張労働している場合や国外の支店に転勤するという場合、出向する場合には、引き続き、雇用保険の対象となる。

②雇用保険の保険料計算で用いる賃金総額
 確定保険料の計算では、支払いの確定した賃金総額を用います。年度の初日(4月1日)に64歳以上である労働者は雇用保険料が免除されるため、免除対象高年齢保険者の賃金は保険料を算定する際の賃金総額から差し引きます。概算保険料の計算では、直前の保険年度の賃金総額の100分の50以上100分の200以下であるときには、賃金総額見込額は、直前の保険年度の賃金総額を使います。また、賃金総額に1,000円未満の端数が出たときは、端数を切り捨てます。

③雇用保険の保険料計算に用いる保険料率
 保険料率は、事業の種類により、1,000分の11~1,000分の14です。(厚生労働省HP「雇用保険料率について」で確認できます。保険料率は年度によって変更になります。なお、平成30年度:一般の事業9/1000・農林水産・清酒製造の事業11/1000・建設の事業12/1000です。)なお、給与計算の時と違い事業主負担分と労働者負担分を加算した雇用保険料率(本来の保険料率)を用います。(給与計算で控除している労働者負担分の雇用保険料は、労働保険の年度更新で精算されることになります。)

(3)一般拠出金
 年度更新の手続きの際、石綿(アスベスト)による健康被害救済に充てる費用として、全事業主が申告納付する必要があるものを、一般拠出金といいます。
 石綿は、すべての産業で、基盤となる施設、設備、機材などに幅広く使用されていました。このため、健康被害者の救済にあたって、石綿の製造販売などを行なってきた事業主だけではなく、すべての労災保険適用事業場の事業主が、一般拠出金として負担することになっています。
 一般拠出金の額は、労災保険の確定賃金総額に、1,000分の0.02(間違えて計算する方が多いようですが2%でも0.02%でもありません。0.002%です。)を乗じて計算します。一般拠出金は、労働保険の確定保険料と一緒に申告納付する必要があります。

(4)労働保険の納付
 確定保険料が申告済概算保険料より多い場合は、6月1日から7月10日までに「不足額」を納付します。申告済概算保険料より少ない場合は、今年度の概算保険料に「過納額」を充当します。
※もし、今年度の概算保険料に過納額を充当しても余る場合は還付請求をすることができます。(還付請求書を年度更新の申告書とともに提出します。)
 概算保険料と一般拠出金も、毎年6月1日から40日以内に納付することになっています。納付すべき概算保険料の額が40万円以上(労災保険か雇用保険のどちらか一方の保険関係のみ成立している場合は20万円以上)であれば、事業主が申告することにより、3期(7月10日、10月31日、翌年1月31日)に分けて納付することができます。これを延納といいます。また、各期に納付する概算保険料の額に端数が生じた場合は1期分にまとめて納付します。
 なお、労働保険事務の処理を労働保険事務組合に委託している事業主は、概算保険料の金額に関わらず延納することができます。


2.2 概算保険料等の計算及び申告書の提出等

※詳細は厚生労働省HP「平成29年度事業主の皆様へ(雇用保険用)労働保険年度更新申告書の書き方」を参照してください。

(1)保険料等の計算
 昨年4月~当年3月の賃金台帳から保険料を計算することになるが、計算用のツール「年度更新申告書計算支援ツール」が厚生労働省により用意されている。
厚生労働省HP「労働保険関係各種様式」参照
このツールはExcelで作成されており、「算定基礎賃金集計表」というシートに昨年4月~当年3月の次の項目を入力すると確定保険料の計算の基礎となる賃金総額が自動計算されます。また、ある程度の誤入力を防止する機能もあります。

 (労災保険料の計算)
 ・常用労働者の月末における人数及びその月に賃金総額
 ・使用人兼務役員の月末における人数及びその月の使用人分賃金総額
 ・雇用保険に加入していない労働者(※)の月末における人数及びその月の賃金総額
  (※)ツールでは臨時労働者と表記

 (雇用保険料の計算)
 ・雇用保険に加入している労働者(※)の月末における人数及びその月の賃金総額
  (※)免除対象高年齢労働者を含む
 ・雇用保険に加入している役員のの月末における人数及びその月の賃金総額
 ・免除対象高年齢労働者の月末における人数及びその月の賃金総額


(「算定基礎賃金集計表」シート) 黄色の部分に入力する

 続いて、「申告書記入のイメージ」というシートの①~⑦の内容を入力します。
 ①還付金の請求の有無  通常は「行なわない」(※1)
 ②労災保険の適用保険料率(前年度)
 ③雇用保険の適用保険料率(前年度)
 ④労災保険の適用保険料率(本年度)
 ⑤雇用保険の適用保険料率(本年度)
 ⑥概算保険料の延納の回数(※2)
 ⑦申告済概算保険料及び充当意思
(※1)事業の廃止や大幅な縮小があり、申告済概算保険料の過払額が今回の概算保険料+一般拠出金より高額な場合は、還付金の請求を行います。
(※2)概算保険料について、労災保険と雇用保険に加入している場合はが40万円以上、いずれかに加入している場合は20万円以上であれば延納ができます。なお、延納の回数とありますが1回(つまり分納をしない)と3回しか入力できません。


(「申告書記入のイメージ」シート) ①~⑦の黄色の部分に入力する

(2)申告書の記載方法
 申告書は、あらかじめ労働保険番号、事業の所在地・名称、保険料率等が印字され、都道府県労働局から各事業主あに送付されますので、それに記入します。(「申告書記入のイメージ」シートを印刷しても提出には使えません。)
 その際、保険料計算の項目は青枠部分は「申告書記入のイメージ」シートを転記すれば間違えありません。

(3)申告書の提出方法
 申告書を所轄の労働基準監督署などに提出します。提出期限は6月1日から7月10日までです。申告書の1枚目のOCR 用紙は労基署(※1)に提出し、2枚目が会社控になります。下段の納付書(領収済通知書)はそのまま返却され、後日、最寄りの金融機関で保険料を納付します。
(※)金融機関で申告書提出と保険料納付を一括してに済ますこともできます(会社控に受理印はもらえませんが、受理印がなくても特に支障はありません)



人事労務の備忘録(社労士監修)

社会保険労務士が作成する給与計算・社会保険・労働保険・労働法等についての備忘録です。 各種書式、各種手続や法令解釈等について解説しています。

0コメント

  • 1000 / 1000