残業手当の計算
1.法定時間外・休日・深夜労働
①所定外労働賃金
就業規則等で1日の所定労働時間が定められていますが、その時間を超えて労働した場合は、所定外労働時間に対する時間給を支給する必要があります。
②法定労働時間
労働基準法により労働時間は規制されており、原則として、休憩時間を除き、1日8時間・1週間40時間が法定労働時間となっています。ただし、次の事業(特例事業)の法定労働時間は、休憩時間を除き、1日8時間・1週間44時間という例外があります。
常時10人未満の労働者を使用する商業・理容・映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)・保険衛生業・接客娯楽業の事業
※保険衛生業とは、医療機関や介護施設などのことをいいます。
・週単位の労働時間の計算の起算日
割増賃金の対象となる週単位の労働時間の計算の起算日(曜日)は、就業規則の定めに従いますが、就業規則に定められていない場合は、日曜日から土曜日となります(昭和63.1.1基発1号)。また、給与の算定期間を跨いだ場合は、次の算定期間に労働時間は持ち越されることになります。
③法定休日
労働基準法により規制されている休日を法定休日といい、原則として、毎週1回です。例外として、就業規則等の規定に基づいて4週間を通じ4日以上の休日を与えるとする変形休日制が認められています。
(1)法定休日をカウントの起算日
就業規則の定めに従いますが、就業規則に定められていない場合は、日曜日から土曜日となります。従って、変形休日制を採用していない限り、連続した所定労働日は最長でも12日間となります。
(2)法定休日を定めていない場合の取扱い
就業規則に「毎週に●曜日を休日とする。」と定めてあれば、「法定休日」と明記されていなくても、その曜日を法定休日として取り扱って差し支えありません。
週休2日制を採用しており、就業規則に「毎週に●曜日と●曜日を休日とする。」と定めてある場合は、法定休日のカウントの起算日(就業規則で起算日を定めていない場合は日曜日)から見て、最も後順位となる休日が法定休日となります。(厚生労働省による平成21年10月5日改正労働基準法に係る質疑応答)(※)
従って、土日が休日の週休2日制で就業規則に法定休日を定めていない場合は、土曜日が法定休日となります。なお、「労働条件を明示する観点及び割増賃金の計算を簡便にする観点から,就業規則その他これに準ずるものにより,事業場の休日について法定休日と所定休日の別を明確にしておくことが望ましい 」(H21.5.29基発第0529001号)とされており、必ずしも就業規則に法定休日を定める必要はありませんが、この行政解釈と異なる判例(※)もあるため、必ず就業規則に定めることをお勧めします。
(※)土日を休日とする週休2日制の会社に対して、週休2日制を導入した経緯等から黙示の合意があったとして、日曜日を法定休日とすべきであると認定した判例もあります。(HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド賃金請求事件/東地裁H23.12.27)
(3)代休と振替休日
法定休日労働や長時間の時間外労働、深夜労働を行なった場合に、その代わりとして指定された特定の労働日を代休日いい、代休日の労働義務を免除する制度を代休といいます。
また、あらかじめ休日と定められた日を労働日とし、その代わりに他の労働日を休日とすることを、休日の振替(振替休日)といいます。代休と振替休日は似ていますが、代休は事後に手続きをするのに対し、振替休日は先に手続きをする点が異なり、割増賃金の有無などの効果も異なります。
④割増賃金
労働基準法では、(1)労働者に法定労働時間を超えて労働(法定時間外労働)させた場合、 (2)労働者に法定休日に労働させた場合、そして、(3)労働者に深夜労働(22:00から翌日5:00までの労働)をさせた場合には、その時間・日の労働について、割増賃金を支払うことを義務付けています。
(1)法定時間外労働
所定外労働のうち、全てが法定時間外労働になるとは限りません。例えば、所定労働時間6時間(9:00~16:00 休憩1時間)で9:00~19:00の時間帯働いた場合、16:00以降は全て所定外労働となりますが、16:00~18:00までは1日の労働時間が8時間を超えていないため、法定内の所定外労働(法定内所定外労働)となり割増賃金の対象にはならず(残業手当としては通常の時給のみが発生)、18:00~19:00が法定外所定外労働(法定時間外労働)となります(割増賃金が発生)。
時間給1,000円の場合 残業手当=1000円×2時間+1000円×1.25×1時間=3,250円
(2)法定休日労働
労働基準法上の割増賃金の支払いが必要となるのは、法定休日に労働させた場合です。例えば、週休2日制の会社で、そのうちの1日のみ労働させた場合には、労働基準法上の休日労働に関する割増賃金の支払いは不要です。ただし、1週間の労働時間が40時間(特例事業では44時間)を超えた場合には、時間外労働に関する割増賃金の支払いは必要となります。
(3)割増賃金の割増率
労働基準法による割増賃金の割増率は、次のとおりです。これは、最低の基準であるため、下回る率を設定することは認められません。なお、上回る率を設定することは認められます。
(※)( )は、1か月について時間外労働が60時間を超えた場合の60時間を超える時間についての割増率で、次の表に該当する中小企業については当面の間猶予されています。なお、2022年4月1日からは猶予が廃止される見込みのようです。⇒参照
⑤労働時間計算の切り上げ・切り下げ
1か月単位の労働時間の計算では30分以上を切り上げ、30分未満を切り下げる計算を行なってもかまいません。ただし、1日単位の労働時間の計算では1分単位で計算しなければなりません。(大阪労働局「時間外労働・休日労働・深夜労働(Q&A)Q.11」)
(1日単位で15分未満や30分未満で切り捨てると賃金未払いとなり、実際に行政指導の対象となっています。参照)
※1日ついて1分単位で計算しなければならない根拠は、昭和63.3.14基発150号の反対解釈のようです。
⑥暦日を跨いで継続勤務した場合の割増賃金
※所定労働時間が9:00~18:00の会社で翌朝の6:00まで徹夜により残業するようなケース
(1)1日目・2日目ともに所定労働日である場合
原則として、1日目の始業時間から2日目の就業時間までを1つの勤務時間とみなして、割増賃金を計算します。(昭和63.1.1基発1号)ただし、終業時間が2日目の始業時間を超えた場合は、2日目の始業時間以降は割増賃金は発生しません。(「翌日の所定労働時間の始期までの超過時間に対して、法第37条割増賃金を支払えば法第37条の違反にならない。」昭和26.2.26基収第3406号、平成11.3.31基発第168号 ただし、2日目の始業時間からカウントしてさらに法定労働時間を超えた場合は、再度法定労働時間外の割増賃金が発生します。)
例えば、所定労働時間が9:00~18:00(休憩1時間)の会社で、1日目午前9:00~2日目午前10:00まで継続して働いた場合、1日目18:00~2日目9:00の15時間は法定時間外労働(割増率25%以上)となりますが(1日目22:00~2日目5:00はさらに深夜労働・割増率25%以上加算)、2日目午前9:00~午前10:00の1時間は2日目の始業時間を超えているので法定時間外労働となりません。
時間給が1,000円の場合
残業手当=1,000円×1.25×8時間+1,000円×1.5×7時間=20,500円
(2日目の9時~10時は、残業手当の計算に含めない)
早退控除=1,000円×1時間=7,000円(2日目に1時間しか働いていないため)
(2)1日目が所定労働日で2日目が法定休日である場合
法定休日はその日0:00~24:00の時間帯に働いた時間のみが法定休日労働となります。また、法定休日労働については時間外労働という概念はありません。
例えば、所定労働時間が9:00~18:00(休憩1時間)の会社で、1日目午前9:00~2日目午前10:00まで継続して働いた場合、1日目18:00~24:00(=2日目0:00)の6時間は法定時間外労働(割増率25%以上)となり、2日目午前0:00~午前9:00までの9時間は法定休日労働(割増率35%以上)となります。なお、1日目22:00~2日目5:00はさらに深夜労働(割増率25%以上が加算)となります。
時間給が1,000円の場合
残業手当=1,000円×1.25×4時間+1,000円×1.5×2時間+1,000円×1.6×5時間+
1,000円×1.35×5時間=22,750円
(3)1日目が法定休日で2日目が所定労働日である場合
法定休日はその日0:00~24:00の時間帯に働いた時間のみが法定休日労働となり(「法定休日である日の午前0時から午後12時までの時間帯に労働した部分が休日労働となる。したがって、法定休日の前日の勤務が延長されて法定休日に及んだ場合及び法定休日の勤務が延長されて翌日に及んだ場合のいずれの場合においても、法定休日の日の午前0時から午後12時までの時間帯に労働した部分が3割5分以上の割増賃金の支払を要する休日労働となる。」平成6.5.31基発331号)、法定休日労働については時間外労働という概念はありませんので、例えば、所定労働時間が9:00~18:00(休憩1時間)の会社で、1日目午前9:00~2日目午前10:00まで継続して働いた場合、1日目9:00~24:00(途中で1時間の休憩)の14時間は法定休日労働(割増率35%以上)、2日目午前0:00~午前8:00の8時間は法定内所定外労働(割増賃金無し)、2日目午前8:00~午前9:00の1時間は法定時間外労働(割増率25%以上)、2日目9:00~10:00は割増賃金無し(2日目の始業時間を超えているため)となります。なお、1日目22:00~2日目5:00はさらに深夜労働(割増率25%以上が加算)となります。
時間給が1,000円の場合
残業手当=1,000円×1.35×12時間+1,000円×1.6×2時間+1,000円×1.25×5時間+
1,000円×3時間+1,000円×1.25×1時間=29,900円
(2日目の9時~10時は、残業手当の計算に含めない)
欠勤控除=1,000円×7時間=7,000円(2日目に1時間しか働いていないため)
(4)1日目・2日目ともに法定休日である場合
法定休日はその日0:00~24:00の時間帯に働いた時間のみが法定休日労働となり、法定休日労働については時間外労働という概念はありませんので、全ての労働時間が法定休日労働(割増率35%以上)となります。なお、1日目22:00~2日目5:00はさらに深夜労働(割増率25%以上が加算)となります。
(5)1日目・2日目または両日が法定外休日である場合
法定休日ではありませんので、法定休日労働とはなりませんが、働いた全ての時間が所定外労働(通常の時間給での賃金が発生)となります。その他は、(1)1日目・2日目ともに所定労働日である場合と同様に取り扱います。(原則として、1日目の始業時間から2日目の就業時間までを1つの勤務時間とみなして、割増賃金を計算。ただし、終業時間が2日目の始業時間を超えた場合は、2日目の始業時間以降は割増賃金は発生しない。なお、1日目22:00~2日目5:00の時間帯は重ねて深夜労働となる。)
⑦その他の主な注意点
(1)1日単位の計算で法定時間外労働となった部分は、週単位の計算では法定時間外労働のカウントには加算しない。
例えば、所定労働時間が9:00~18:00(休憩1時間)の会社で月曜日~金曜日まで毎日9:00~19:00まで働き、土曜日に9:00~13:00(休憩なし)働いた場合は、週の実労働時間としては49時間であるが、月曜日~金曜日の18;00~19:00の1時間は、1日単位の計算で法定時間外労働となっているため、週の法定時間外労働の計算では加算せず、月曜日から土曜日までで44時間(月~金:8時間 土:4時間)のカウントとなり、40時間を超えた4時間だけが週単位の法定時間外労働となる。
※なお、特例事業の場合は、週44時間が法定労働時間なので週単位では法定時間外労働は発生しません。
(2)法定休日労働については、法定労働時間という概念が無く、法定時間外労働による割増賃金は発生しない。また、週の法定労働時間の計算においてもカウントしない。ただし、深夜労働になった場合は、休日労働の割増率35%に深夜労働の割増率25%が加算され、60%の割増率となる。
(3)割増賃金の対象となる労働時間は、実労働時間(実際に働いた時間)でカウントされる。従って、有給休暇を取得した日(時間単位の取得の場合は時間)の労働時間はカウントされない。
例えば、土日週休2日制で所定労働時間が9:00~18:00(休憩1時間)会社(法定休日は日曜日)で、月曜日に有給休暇を取得し、火曜日から土曜日まで9:00~18:00働いた場合は、1日単位(どの日も実労働時間が8時間を超えていないので)でも、週単位でも(実労働時間は火曜日から土曜日の5日×8時間)時間外労働は発生しない。ただし、本来休日である土曜日に出勤をしているので、その分が8時間の法定内所定外労働時間(割増賃金は発生せず、通常の時間給8時間分のみが発生)となる。
また、同じ会社で午前4時間の半日単位で有給休暇を取得し、14:00~22:00まで働いたとしても、実労働時間は8時間を超えていないため割増賃金は発生せず、18:00~22:00の4時間について法定内所定外労働時間(割増賃金は発生せず、通常の時間給4時間分のみが発生)となる。
時間給が1,000円の場合
休日出勤手当(割増無し)=1,000円×8時間=8,000円
(有給休暇は欠勤控除されません。)
(4)割増賃金の対象となる週単位の労働時間のカウントの起算日(曜日)は、就業規則の定めに従うが、就業規則に定められていない場合は、日曜日から土曜日となる(昭和63.1.1基発1号)。また、給与の算定期間を跨いだ場合は、次の算定期間に労働時間のカウントは持ち越されることになる。
2.時間給の計算
残業手当の計算や欠勤・遅刻・早退の控除などで、月給制もしくは日給月給制の従業員についても時間給を計算する必要があります。
①時間給の計算方法
時間給の計算方法については、労働基準法施行規則第19条で定められています。時給制・日給制・月給制については次のように定められています。
(1)時給制 時給の金額
時給だけで他に手当等が無ければ、このまま時給が時間給となります。手当がある場合は、(4)その他に従って計算される手当の時間換算を加算します。
(2)日給制
日給を1日の所定労働時間数(日によって所定労働時間数が異る場合には、1週間における1日平均所定労働時間数)で除した金額
1日の所定労働時間が一定であれば、日給を1日の所定労働時間で割れば時間給となりますが、シフト制などにより1日の所定労働時間が異なる場合は、1週間の所定労働時間を求めて、1週間の所定労働日数(※7日では無いことに注意)で割り、1週間における1日平均所定労働時間を求めて、日給を1週間における1日平均所定労働時間で割ります。
(所定労働時間が一定の場合)
時間給=日給(※)/1日の所定労働時間
(所定労働時間が一定ではない場合)
時間給=日給(※)/(1週間の所定労働時間/1週間の所定労働日数)
(※)③で説明する一定の手当を控除します。
(3)月給制
月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、1年間における1か月平均所定労働時間数)で除した金額
月における所定労働時間数は異なる場合がほとんどなので、1年間における1月平均所定労働時間を求める必要があります。求め方は、②で説明します。
(4)その他
月、週以外の一定の期間によって定められた賃金については、時給制~月給制に準じて算定した金額
時給制や日給制であっても、役職手当など月単位で定められた手当が支給されることあります。その場合は、それぞれの手当の支給単位に応じて(1)~(3)の方法で時間換算の手当を計算して換算します。
②月給制の1年間における1か月平均所定労働時間数の計算
1年間における1か月平均所定労働時間数は次のように求めます。
1か月平均所定労働時間数=
(1年間の暦日数ー所定休日数)×1日の所定労働時間/12
※12で割っているのは、12か月で割って1月当りの平均としています。
※端数は切り捨てるか、小数点以下第2位程度まで使用する。
(1)1年間とは
就業規則等に定めがあればその定めに従いますが、無い場合は毎年1月1日~12月31日が1年間となります。1年間の暦日数は、通常365日・閏年なら366日となります。なお、1か月平均所定労働時間数が小さいほど時間給が高くなりますので、閏年に365日で計算したとしても賃金未払いとはなりません。
(2)所定休日とは
法定休日か否かに関わらず、就業規則や労働カレンダー等で定められている休日となります。なお、1か月平均所定労働時間数が大きいほど時間給が低くなりますので、就業規則で定められた所定休日数が実態とかけ離れて小さい場合は、賃金未払いとなるリスクが高まります。面倒でも、毎年実態に合った所定休日を計算しておくことをお勧めします。
③時間給の計算から控除することができる手当
月給制の時間給は次のように求めます。
時間給=(月給ー除外賃金)/1か月平均所定労働時間数
※端数は50銭未満切捨て、50銭以上1円未満は切り上げ
ここで、除外賃金とは労働基準法施行規則21条により定めれている次の手当が該当します。これは例示列挙ではなく限定列挙とされており、ここに列挙されていないものは、全て割増賃金計算の基礎となります。(厚生労働省リーフレット参照)
(1)家族手当
名称が「扶養手当」や「生活手当」等であっても、実態が「扶養家族数またはこれを基礎とする家族手当額を基礎として算出された手当」については、家族手当に含まれ、割増賃金の基礎に算入されません。 しかし、扶養家族数に関係なく一律に支給される場合は、家族手当と称していても、実質的に家族手当ではないため、通常の賃金として割増賃金の基礎に算入されます。
(2)通勤手当
労働者の通勤距離または通勤に実際に要する実費に応じて計算され支払われる手当をいいます。一律に一定金額を支給する場合は、実際の距離に対応していませんので、ここでいう通勤手当に該当せず、通常の賃金として割増賃金の基礎に算入されます。なお、一定場合には源泉所得税の計算で非課税となります。
(3)別居手当
名称が「単身赴任手当」等であっても、通勤の都合により同一世帯の扶養家族と別居を余儀なくされる労働者に対して、世帯が二分されることによる生活費の増加を補うために支給される手当をいいます。
(4)子女教育手当
労働者の子弟の教育費を補うことを目的に支給されるものが該当します。
(5)住宅手当
名称が関わらず、住宅に要する費用に応じて(定率を乗じる、段階ごとに支給額を変える等をして)算定される手当。
住宅形態(賃貸か持ち家か)や住宅以外の要素(扶養家族数の有無)で額が変動したり、全員一律支給のものは「除外される住宅手当」に当たりません。
(6)1か月を超える期間毎に支払われる賃金
賞与などであり、具体的には、1か月を超える期間の出勤成績によてて支給される精勤手当、1か月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当や1か月間を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給または能率手当などが該当します。
(7)臨時に支払われた賃金
慶弔見舞金、研修手当(業務上必要な研修を受けた場合の実費負担)、資格取得手当(資格を取得した際に一時的に支給される手当),大入り袋や表彰に基づく褒賞金など、臨時的、突発的事由に基づいて支払われるもの、および結婚手当等支給条件はあらかじめ確定しているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ、非常にまれに発生するものをいいます。(昭22.9.13 発基17参照)
3.遅刻・早退、欠勤控除
遅刻や早退の時間分の賃金を通常の給与から控除することや、欠勤日の分の賃金を通常の給与から控除することは、ノーワーク・ノーペイの原則により、当然に認められています。
なお、控除する額の計算方法については、労働基準法などの法令に規定はなく、就業規則等で定められた方法によりますが、定めが無い場合は割増賃金の時間給の計算を準用してもよいでしょう。
①遅刻・早退控除・欠勤控除と減給の制裁
労働しなかった分を控除することは問題ありませんが、労働しなかった分を超えて控除する場合は、労働基準法に規定する減給の制裁に該当します。従って、例えば5分の遅刻を30分の遅刻として賃金カットするというような処理は、労務の提供の無かった限度を超えるカット(25分についてのカット)については、通常の給与計算の処理としては、労働基準法24条の賃金の全額払いの原則に違反し、無効となります。
ただし、就業規則で減給の制裁として規定し、労働基準法91条(制裁規定の制限)の範囲内で行なう場合には、賃金の全額払いの原則に違反しません。
労働基準法91条(制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期間における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
「5分の遅刻を30分の遅刻として賃金カットするような処理は、労働の提供のなかった限度を超えるカットについて、賃金の全額払の原則に反し、違法である。なお、このような取扱いを就業規則に定める減給の制裁として、法第91条の制限内で行う場合には、全額払の原則には反しないものである。」(昭和63.3.14基発150号)
②実務上の控除方法
・例えば5分の遅刻を1日毎に5分単位で控除する必要は無く、労働時間の計算の際に、マイナスの所定外労働として賃金支払期間で集計して計算すると、他の日の所定外労働時間と相殺されます。また、所定労働時間が8時間の日に5分遅刻したなら、5分残業をさせても法定時間外労働にはなりません(5分の所定外労働)ので、そのような運用をすれば1日毎に労働時間を相殺することもできます。
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