労働法の全体像~労働法の法源1(労働基準法・労働協約)

強行法規

強行法規とは、当事者の合意の有無・内容にかかわらず当事者を強制的に規律する法規範
(当事者の双方がこれと異なる条件を心底望んで合意したとしても無効となる)

強行法規には次の2種類がある。

①実定法上の規定
 労働基準法、最低賃金法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法など
 これらの法律が定める基準に達しない当事者の合意や契約は無効となり、これらの法律で定められた基準によって当事者は強制的に規律される。

②強行法的な判例法理
 解雇権濫用法理、採用内定法理、試用法理、配転・出向法理、懲戒権濫用法理、男女平等取扱法理など。
 権利濫用(民法1条3項)や公序良俗(民法90条)など民法の一般的な強行規定を根拠にして構成されており、当事者の合意の有無・内容にかかわらず当事者を規律する。また、一部は労働契約法によって明文化されている。(出向法理(14条)、懲戒権濫用法理(15条)、解雇権濫用法理(16条)、雇止め法理(19条))


労働基準法の規制の枠組み

労働基準法に定められた基準は、

①少なくともこれを守らなければならないという最低基準性(労働基準法1条2項)

②労働基準法上のすべての使用者がすべての労働者に対して一律に守らなければならない一律性

(労働基準法を守っていては経営が成り立たない企業は、最低基準のルールを守れないのだから社会から消えてもらうしかない。)

ただし、一定の例外があり、

①労使協定
 事業場の労働者の過半数を組織する労働組合がある場合にはその労働組合、もしくはそれが無い場合は労働者の過半数を代表する者との、書面による協定。36協定など

②労使委員会の決議
 事業場の労働条件の調査審議を行なう労使半数ずつで組織された委員会(「労使委員会」という。)の委員の5分の4以上の多数による決議(労働基準法38条の4)

によって、労働基準法で明文により定められた一定の場合に限り、その協定や決議の定める範囲内で労働基準法の規制を免れることができる。

この労使協定及び労使委員会の決議(以下、「労使協定等」という。)は、労働基準法の規制を解除する効果(労使協定等の規制解除効)をもつにすぎず、労働協約、就業規則及び労働契約といった労働法上の法源と異なり、基本的に労働者と使用者間の権利義務を設定する効果を持たない。なお、この労使協定等の規制解除効は、労働者の51%で構成されている労働組合が締結した労使協定の効果は残りの49%の労働者にも及ぶ。


昭和63.1.1基発第1号
労働基準法上の労使協定の効力は、その協定に定めるところによって労働させても労働基準法に違反しないという免責効果をもつものであり、労働者の民事上の義務は、当該協定から直接生じるものではなく、労働協約、就業規則等の根拠が必要である。例→会社は、業務の都合上時間外、休日労働に関する協定に基づいて、時間外労働・休日労働を命ずることがある。


労働者の過半数代表者の選挙

労働組合が無い事業場では、労働者の過半数代表を選出して労使協定を締結するが、選出には注意を要する。

手続きの民主性を保証するため、
①過半数代表者は管理監督者(労働基準法41条2号)であってはならない
②法が規定する過半数代表者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法(労働者の話合い、持ち回り決議等を含む(平成11.3.31基発169号))によって選出する者であることが求められている。(労働基準法施行規則第6条の2)

これらの要件を満たしていない従業員代表と締結した労使協定は無効となる。(従業員の親睦団体の代表者が自動的に労働者の過半数代表となって締結された労使協定(36協定)の効力が否定された判例もある。トーコロ事件


(私見~実務上どうするか)
①店舗等であれば管理監督者に該当するかどうかにかかわらず、事業場の責任者を労働者の過半数代表者とするのは避けるべきであろう。また、事務所等であっても一定の組織の長やそれに相当する肩書きの方は避けたほうが無難。


②労働者の過半数代表者をやりたいと自ら名乗り出る方はそれほどいないため、次のようにすればどうであろうか。(なお、ジャンケンやくじは民主的に選出されたとは言えないので不適切であろう。)
(1)他に自薦または他薦が無い場合という条件付きで会社が過半数代表者の候補者を指名する。(管理部門以外の者が望ましい)
(2)一定期間を設けて過半数代表者の立候補者を募集する。

(3)立候補が無い場合は会社が指名した者、立候補者がいた場合は立候補した者について回覧方式(従業員がそれぞれ氏名と賛否を記入して回す)で賛否を確認する(賛成が過半数に達すれば当選)。
  回覧方式のイメージ:従業員代表選挙投票用紙



労働基準法の実効性確保の手段

労働基準法の規制を使用者に守らせるための手段として、次のようないくつかの方法がある。

①私法上の救済
 労働法の定める基準を下回る労働基準を定める当事者間の合意(労働契約)は、その部分について無効とされ(強行的効力)、無効となった部分は労働基準法の定める基準によって補われる(直律的効力 労働基準法13条)。
 さらに、労働基準法に基づいて支払うべき賃金や手当を使用者が支払わなかった場合、裁判所は、労働者の請求により、未払金のほか、これと同一額の付加金の支払いを命じることができる(労働基準法114条)。なお、付加金は違反があったときから2年以内に請求しなければならい。また、この付加金の支払義務は裁判所の命令(労働審判手続きでは命じることができるか不明確)によって発生するものであり、裁判所がこれを命じる前(事実審の口頭弁論終結時まで)に使用者が未払金の支払いを完了し労働基準法違反の状況が消滅したときは、裁判所は付加金の支払いを命じることができなくなる。

②刑事罰
 労働基準法の規制のほとんどには、違反に対する罰則が定められている(労働基準法117条以下)。これらの規制事項について実質的な権限をもって違反行為を行なった者(実行者)がこの刑事罰の対象となる。(労働基準法上の使用者を参照)
 労働基準法は、両罰規定規定を定めており、この行為者への処罰のみならず、その事業主(個人企業の場合は企業主個人、法人企業の場合は法人)に対しても罰金刑を科すこととしている。ただし、事業主(ここでは自然人。法人の場合は代表者)が違反防止に必要な措置を講じていた場合には、これを免れうる(労働基準法121条1項)。
 また、事業主(自然人)が違反の計画や行為を知りながらその防止や是正に必要な措置を講じなかった場合、および、違反を教唆した場合には、事業主自身も行為者として処罰される(労働基準法121条2項)。この場合は、罰金刑のみならず懲役刑も科されうる。

③行政監督
 労働基準法などの労働関係法規の実効性を確保するため、厚生労働大臣を頂点とした行政監督制度(厚生労働大臣ー厚生労働省労働基準局ー各都道府県労働局ー労働基準監督署)が設けられており、これらの機関には労働基準監督官が配置されている(労働基準法97条、99条)
 これらのうち、労働監督行政の第一線で働く労働基準監督官は、事業場などを臨検し、帳簿・書類の提出を求め、必要な尋問を行なうことができ(労働基準法101条)、労働基準法違反の罪については、逮捕、捜査、検証など刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行なう権限が認められている(102条)。また、労働基準監督署長には、労働基準法の各規定に基づき、臨検、尋問、許可、認定、審査、仲裁を行なう必要がある場合には、使用者や労働者に報告・出頭を命じることができる(労働基準法104条の2)。
 労働者は、労働基準法に違反する事実があると考えるときには、その事実をこれらの行政官庁や労働基準監督官に申告することができる。使用者は、申告を理由として、労働者に解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(労働基準法104条)。また、使用者は、事業場ごとに労働者名簿と賃金台帳を調製して所定の事項を記入しなければならず(労働基準法107条、108条)、これらの書類とその他労働関係に関する重要書類を3年間保存しなければならない(109条)。


労働協約

労働協約とは、労働者が組織する労働組合と使用者との間で締結された労働条件等に関する合意のことをいう。労働協約が一定の様式(書面に作成し署名または記名押印する)を満たす場合(労働組合法14条)、労働組合法によって大きく2つの特別な効力が認められる。

①労働協約の規範的効力
 労働協約に定める基準に反する労働契約の部分を無効としそれを補う効力(強行的直律的効力 労働組合法16条)。なお、この効力は、原則として協約を締結している組合の組合員にのみ及ぶ。また、必ずしも最低基準効を有するともいえない。(労働協約の有利原理参照)

②労働協約の一般的拘束力(拡張適用)
 ある事業場の同種の労働者の75%以上が同一の労働協約の適用下に置かれるに至った場合(例えば労働協約を締結している労働組合がある事業場の労働者の75%以上を組織している場合)に、その組合に組織されていない同種の労働者にも当該協約の効力を及ぼすものである(労働組合法17条)その意味で、この拡張適用は、労働協約の効力は組合員にのみ及ぶとする原則の例外にあたるものである。なお、他の組合に加入している者にはこの拡張適用は及ばないものと解釈されている。
 

人事労務の備忘録

社会保険労務士が作成する給与計算・社会保険・労働保険・労働法等についての備忘録です。各種書式、各種手続や法令解釈等について解説しています。

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