労働法の基本的な枠組み

労働法の体系

労働法とは、一般に、労働者と使用者の間の労働をめぐる関係を取り扱う法のことをいう。なお、「労働法」という法律があるわけではない。労働法は次の4つに分類することができる。


①労働者と使用者の個別の関係(雇用関係)を規律する雇用関係法

労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法、労働契約法など


②労働者、使用者と労働組合との集団的な関係(労使関係)を規律する労使関係法

労働組合法、労働関係調整法など


③求職者と求人者の労働力取引に関する労働市場法

職業安定法、労働者派遣法、雇用対策法、雇用保険法など

④労働関係をめぐる紛争の解決のための労働紛争解決法

個別労働関係紛争解決促進法、労働審判法など


労働法の適用の適用順位

労働法は次の順番で適用される。

①強行法規・・・最低の基準

②労働協約(労働組合法16条)・・・労働組合が存在しない事業場には無い(※)

③就業規則(労働契約法12条)・・・強行法規と同等もしくは良い条件

④労働契約・・・就業規則と同等もしくは良い条件

    (1)意思表示の合致

    (2)事実たる慣習

    (3)任意法規

    (4)条理・信義則

(※)労働契約で労働協約より有利な条件が定められている場合に、有利な部分についてまで就業規則や労働契約が否定されるかどうかには学説で争いがある。実務的には、労働協約にどのような趣旨かを明記しておくべきであろう。


強行法規とは

労働者と使用者間の雇用関係は、契約(広義の労働契約)であるが、契約は公の秩序に関する法律規定するものであってはならない(民法90条)。公の秩序に関する法律規定は「強行法規」と呼ばれており、これに反する契約は無効とされる。これに対して、公の秩序に関しない法律規定は「任意法規」と呼ばれており、これに反する契約は認められる。

法律上の規定が任意法規にあたるのか強行法規にあたるのかは、法律上の明文の定めまたはそれがない場合には当該規定の趣旨に基づいて判断される。

労働基準法13 条は, 「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は, その部分については無効とする。この場合において, 無効となった部分は, この法律で定める基準による」と規定することで同法が労働契約に対して強行法規であることがが明確にされている。

また、最低賃金法でも4条2項に、「最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。」定められている。同様に、男女雇用機会均等法、育児介護休業法なども強行法規とされており、これらの法律の定める基準に達しない当事者の合意(契約)は無効となり、これらの法律で定められた基準のよって当事者は規律されることとなる。(有給休暇を年3日とする就業規則で定めて無効であり労働基準法に定められた有給休暇が付与されるし、最低賃金より少ない給与で締結された労働契約も無効で最低賃金と同額の給与で締結されたものとみなされる。)

このようなに法律で定められた強行法規の他に、強行法規的な性格を持つものとして判例法理がある。判例は、権利濫用(民法1条3項)や公序(民法90条)など強行性をもつ民法上の一般規定を根拠に、解雇権濫用法理、採用内定法理、試用法理、配転・出向法理、懲戒権濫用法理、男女平等取扱法理などを形成している。これらの判例法理は、当事者の合意の有無・内容にかかわらず当事者を規律する側面をもっており、その一部は労働契約法によって明文化されている(出向法理(14条)、懲戒権濫用法理(15条)、解雇権濫用法理(16条)、雇止め法理(19条))。


労働協約の規範的効力

労働協約とは、労働者が組織する労働組合と使用者との間で締結された労働条件などに関する合意のことをいい、一定の様式を満たす場合には、「労働条件その他労働者の待遇に関する基準」を定める部分について、それに反する就業規則・労働契約を無効としそれを補う効力(労働協約の規範的効力と呼ばれる)が認められている(労働組合法14条・16条)。なお、労働協約より有利な条件の労働契約が有効か無効かについては諸説あり一概にはいえない。


就業規則の最低基準効

就業規則に定められた労働条件には、事業場における最低基準として、これを下回る労働契約の部分を無効としそれを補う効力(就業規則の最低基準効)が認められている(労働契約法12条)。なお、就業規則は強行法規や労働協約に反してはならないとされている(労働基準法92条、労働契約法13条)が、実際には法改正の際に変更をしていない会社が散見されるが、この場合は上述のとおり強行法規(労働基準法なとの規定)が優先適用される。


就業規則の有利原理

上述のとおり、労働契約法12条のより就業規則に定められた労働基準を下回る労働契約の部分は無効とされているが、同条の反対解釈により、就業規則に定められた労働基準より有利な労働契約は有効である。つまり、就業規則の拘束力は、より有利な労働契約には及ばない片面的なものである。このような就業規則より有利な当事者の合意を認めることを、「就業規則は有利原理を肯定する」という言い方をする。


労働協約の有利原理

上述のとおり、就業規則は有利原理を肯定するが、労働協約と労働契約との関係では労働協約の「基準に違反する」労働契約の部分を無効とするとの文言が用いられている(労働組合法16条)ため、労働協約より有利な労働契約上の合意も労働協約に「違反する」ことになるのか、労働協約より不利な合意のみが「違反する」ことになるのか、つまり労働協約が有利原理を肯定するのか、否定するのかが問題となる。

この点、多数説は労働協約がどのように解釈できるかの問題として処理すべきであると考えており、労働協約を締結する当事者が有利原則を認める趣旨のもとで労働協約を締結したと評価できる場合には、有利原則が認められ、労働協約の締結当事者の意思が明らかでない場合には、日本の企業別交渉の実態や団体権を尊重しようとする法(憲法28条)に照らして、当該労働協約の有利原理を否定する趣旨のもとで労働協約が締結されたと解するのが妥当であるとしている。

従って、実務としては労働協約を締結する際に、どのような趣旨で締結するかを明らかにした内容の労働協約を締結すべきである。

なお、労働協約と就業規則の関係は、労働基準法92条1項が「就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。」と定めているが、労働協約より不利な条件も有利な条件も許されないと解するべきかどうかは議論がある。

(私見:就業規則より不利条件な労働協約が締結された場合、労働協約の有利原理を否定するなら、就業規則についても当然に労働協約より有利な部分は労働協約に「反する」こととなる(そうしないと労働契約より就業規則が有利な条件となり、就業規則の最低基準効が否定される)。また、労働協約の有利原理を肯定する場合でも、労働協約より有利な就業規則を認めることは、労働協約が原則として組合員のみに適用されものである以上、組合員には就業規則より不利な労働協約が適用され、非組合員には労働協約より有利な就業規則が適用されるという事態を招き(就業規則の相対的無効)、労働者が団結して労働協約を締結するための団体交渉をするという労働組合法の趣旨、さらには団体権を尊重しようとする憲法28条の趣旨にも反する。よって、第92条1項は就業規則が労働協約に対して、有利にも不利にも反してはならないことを規定したものと解する。)
















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