労働法の全体像2~使用者とは?

労働契約上の使用者

労働契約上の使用は、労働者が労働契約を締結している企業(法人なら法人自体、個人事業主なら事業主個人)である。しかし、実質的には企業を支配している者が法形式を悪用して契約責任を回避しようとする場合など、契約上の当事者でない者に使用者としての責任を追及する場合もある。これを、使用者概念の拡張という。この使用者概念の拡張を認める手法として、判例上大きく次の2つの技法が提示されている。

①法人格否認の法理
 子会社の従業員によって結成された労働組合を壊滅させる目的で親会社が子会社を解散させた場合や解雇規制を潜脱する目的で親会社が子会社を解散させた場合など、子会社の法人各を否定して親会社に直接契約責任を追及する法理として用いられる。実質的に支配している者が、法人格が異なることを理由に責任の帰属を否定することが正義・公平の原理に反すると考えられる場合に、民法の信義則(民法1条2項)上そのような主張をすることを許されないとするのが法理のロジックである。
 この法理の適用が認められるのは、判例によると、(1)法人格が形骸化している場合(法人格形骸型)と(2)法人格が濫用された場合(法人格濫用型)である。

(1)法人格形骸型が認められる要件
 単に株式の所有等で当該企業に対し支配を及ぼしているというだけでは足りず、人事、財務、業務執行等の面でも実質的に支配・管理し、同企業の法人格が全くの形骸に過ぎなかったことが必要である。



黒川建設事件  2001.7.25/東京地
およそ法人格の付与は社会的に存在する団体についてその価値を評価してなされる立法政策によるものであって、これを権利主体として表現せしめるに値すると認めるときに法的技術に基づいて行われるものである。従って、法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すべからざるものというべきであり、法人格を否認すべきことが要請される場合を生ずる(最高裁昭和44年2月27日第1小法廷判決民集23巻2号511ページ参照)。
 そして、株式会社において、法人格が全くの形骸にすぎないというためには、単に当該会社の業務に対し他の会社または株主らが、株主たる権利を行使し、利用することにより、当該株式会社に対し支配を及ぼしているというのみでは足りず(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律9条は他社の事業活動を支配することを主たる事業とする持株会社を原則として適法とすることが参照されるべきである。)、当該会社の業務執行、財産管理、会計区分等の実態を総合考慮して、法人としての実体が形骸にすぎないかどうかを判断するべきである。



(2)法人格濫用型が認められる要件
 法人を背後から支配している者(支配の要件)がその法人格を違法・不当な目的で濫用した(目的の要件)という事情が必要である。


大阪空港事業(関西航業)事件 2003.1.30/大阪高
法人格の濫用による法人格否認の法理は、法人格を否認することによって、法人の背後にあってこれを道具として利用して支配している者について、法律効果を帰属させ、又は責任追及を可能にするものであるから、その適用に当たっては、法人を道具として意のままに支配しているという「支配」の要件が必要不可欠であり、また、法的安定性の要請から「違法又は不当な目的」という「目的の要件」も必要とされるのであり、法人格の濫用による法人格否認の法理の適用に当たっては、上記「支配の要件」と「目的の要件」の双方を満たすことが必要であると解される。


②黙示の労働契約の成立
 例えばある企業に雇用されている労働者が他の企業に派遣されて就労している場合に、その派遣先の企業に契約責任を追及する法理として用いられる。黙示の労働契約を認めるためには、(1)当該企業の指揮命令を受けて労務を提供し、(2)その対価として当該企業から報酬(賃金)の支払いを受けていること、及び、(3)これらの点について両当事者に共通の認識(意思表示の合致)があったことを立証することが求められる(労働契約法6条、民法623条)
  


労働基準法上の使用者

労働基準法上の使用者概念には、労働基準法上の責任のタイプに応じて2つのものがある。

①労働基準法に基づく契約責任を負う使用者
 労働基準法の基準が労働契約の内容となり、労働契約上の義務として責任を負う者であり、労働契約法上の使用者概念と一致する。

②労働基準法の罰則の適用や行政監督の対象となる使用者
 この使用者については、「事業主」または「事業主のために行為をするすべての者」をいうとの定義が定められている(労働基準法10条)ここでいう「事業主のために行為をするすべての者」とは、労働基準法が規制する事項について実質的な権限を有する者を指しており、時間外労働を命じる権限を有する店長が労働基準法違反となる残業を部下に命じれば、この店長が実行者として責任を問われることになる。これと同時に、事業主にも罰金刑が科されうる(121条 両罰規定)


労働組合法上の使用者

 労働組合法上の責任を負う主体としての使用者は、第一義的には、労働契約を締結している相手方である企業である。しかし、これも一定の例外が認められており、法の趣旨に照らして、①労働条件等について現実的かつ具体的に支配・決定できる地位にある者、及び、②近い過去において使用者だったもしくは近い未来において使用者となる可能性がある者について、労働組合法上の使用者性が認められることがある。

人事労務の備忘録

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